国産畳表の見極め方

現在、日本国内で流通する畳表全体に国産畳表が占める割合は2〜3割です。
その他はすべて中国産ということになります。
少し古い資料ですが、熊本県い業生産販売振興協会 の調査によれば
平成19年には中国産を国産と偽り消費地で流通した畳表は
400〜500万枚もあると推計されています。

消費者(個人のお客様)がご自宅(持ち家)の畳替えをするとき
畳表に国産と中国産があることをご存知の場合は
国産を希望される方が大多数で、売り手からしても
国産畳表のほうが人気があり、売りやすいという意識から
このような偽装をする卸売り業者が存在しています。
食品ではありませんから、国の規制はそれほど厳しくなく
昔に比べ中国産の品質も向上していますから
そうとは知らずに中国産を購入されるお客様は相当数いることになります。

中国産の中にはプロである我々畳屋が見ても
一見国産と見分けがつかないようなものもあります。
い草の泥染めに使う染土に日本産のものを使う中国生産者が増え
昔のように中国産独特の匂いも少なくなりましたし
脱臭処理をしているものもあるやに聞いています。
もちろん産地偽装は言語道断ですが
本当に安くて良いものなら積極的にお客様にお勧めするべきです。
たたみ耳寄りな話にも書きましたが
消費地の畳屋がお客様に積極的にお勧めできない理由は
お客様が持つ中国産に対する負のイメージが一番大きいのですが
品質に対する不透明感や自給率問題などもあり
安さ以外に中国産の良さを説明できない現状です。

弊社に畳替えを依頼していただく個人のお客様も
そのほとんどが国産材料にこだわる方です。
お見積り時に実際に使用する畳表を材料見本としてご覧いただき
きちんとした説明の上、納得してご注文いただいております。



他の多くの畳屋さんが産地偽装あるいは
産地隠しの片棒を担ぐことはないと信じていますが
これから畳替えをしようと検討中で国産畳表を希望のお客様は
念のため、間違いなく国産畳表であることを確認することをお勧めします。

間違いなくといっても100%は難しいかもしれません。
アピール不足もあり、あまり公にはなっていないようですが
国内最大産地である熊本県の生産者・販売者の方々が取り組んでいる
生産者表記を中心に国産畳表の見極め方を紹介します。



JAS表記ラベル

い草畳表は農産物になりますので品質規格はJASとなります。
JAS規格品を求められるのは公的な工事が中心で
あくまでJASで定められた品質は満たしていますという証です。
一般のお客様にとっては中級品までの目安となります。

JAS法が改正されて以降、原料産地、製品産地の別個表記が義務付けられ
ラベルは公的文書扱いですので虚偽表記は罰則の対象となります。
JAS規格畳表を使用する場合の信頼度は高いといえるでしょう。
但し、後貼りですので全くごまかせないとは言い切れません。
因みに下は中国産の場合です。



証糸

熊本県産畳表の経糸には青色と黄色の撚り糸が一本(または数本)入っています。





畳表によって証糸の入る位置が違うことがあり
カット見本だと確認できないことがある上
畳に着けてしまうと確認しずらいかもしれませんので
実際使う材料として施工前に確認してください。
これは熊本の生産者の間でかなり前から使われています。
たかが糸と思われるかもしれませんが
熊本表を判断する上で信頼度はかなり高いです。
近頃の中国産畳表には白/黒や白/赤の撚り糸が入っているものがあります。
熊本県産とは違いますので注意が必要です。


出荷票(証明書)

主に産地の一次問屋が発行、畳表の梱包内に添付します。



生産者名や出荷業者名、製品説明などが併記されており
様式はいくつかありますが、これそのものに発行時の信頼性はあります。
但し梱包を解いて取り出してしまえばどの畳表に添付されていたか判らない上に
悪意の元なら違う畳表の説明にも使えてしまうため
お客様への証明資料としてはちょっと弱いかもしれません。


生産者名スタンプ、ラベル

生産者自らが梱包、出荷前に畳表に押印、貼り付けします。



国産畳表の生産者(織手)はほとんどが い草栽培農家兼業です。
独自のラベルには登録番号などが入っており
さすがにここまで手の込んだ偽装は考えにくいですし
規模が小さいだけに個人名の表記には逆に信頼性があります。


生産者証明タグ

短冊状の証紙を折りたたんだものです。
生産者(織手)自身が織作業中に畳表に挟み込みます。



織上がった畳表に製品を傷つけることなく挟み込むのは簡単ではありませんので
個人名が明記された生産者自身の証明としては相当有用だと思います。
印刷されているQRコードごとに管理された生産者情報が閲覧できます。


産地偽装や産地隠しは生産段階ではなく流通段階で行われますので
生産段階で生産者自らが行う証明が信ぴょう性が高いはずです。
生産者証明タグや青/黄の撚り糸証糸、生産者の個人名表記は
畳表そのものに添付されており最も信頼性が高いといえそうです。
逆に、流通業者や施工業者が発行する証明書の類は
疑われる余地ありの参考資料レベルかもしれません。




以上、所謂素人のお客様でも客観的に国産を判断できるであろう
現状、確認可能な判断材料を示しました。

どんな業界でも同じでしょうが
お客様に良いものを適正な価格で安心して買っていただく
というのが商売の基本理念だと思います。
日本固有の伝統文化ともいえる畳が、その主要な部分で
国外の力を借りなければ成り立たないような現実は悲しいですが
中国産がだめだと言っているわけではありません。
イメージだけではない国産材料の良さを分かっていただいた上で
きちんと判断していただければ幸いです。